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支援事例(公募型共同研究)

株式会社SenSprout

遠隔操作可能な養液栽培システムの研究開発
~栽培作業の省力化と高収益化を実現する~
  • 株式会社SenSprout
    マネージャー
    古賀 勝巳 様

企業概要

株式会社SenSproutは、東京都港区を所在として2015年に設立しました。
主な事業内容は、農業用の土壌水分センサー、および土壌水分センサーの計測値を基に灌水する灌水制御システムの開発販売となっております。東京大学発のスタートアップとして会社を設立し、「プリンテッド・エレクトロニクス」の電子回路を印刷する技術を使った土壌水分センサーの開発が事業開始の経緯となります。
また、農業新規参入企業へのソリューションサービスの運用もしており、テクノロジーを利用して「農業を儲かる事業」に変革するべく研究開発を進めています。

企業HP:https://sensprout.com/

開発のきっかけ

元々は都産技研のシーズを使って、大起理化工業株式会社が都産技研と共同でヤシ殻土壌水分センサーの開発を進めているお話があり、当該水分センサーの計測値に基づいた遠隔での灌水を実現するため、灌水システムを販売していた弊社SenSproutに都産技研担当者様から共同研究募集の紹介があったことが開発のきっかけです。
その後共同研究の枠組みを検討するなかで、ヤシ殻培地を使用した【東京エコポニック】を開発した東京都農林水産振興財団と、カメラによる生育分析の研究を進めていた東京農工大学にも参加頂くことが決定し、弊社を含め5社による共同研究が採択され、2年間の共同研究期間を経て、ヤシ殻培地での遠隔操作可能な養液栽培システムの開発へと至りました。

開発の概要

本共同研究は、東京都農林水産振興財団が独自に開発した、ヤシ殻培地を使用した環境負荷の少ない養液栽培システム【東京エコポニック】をベースに、遠隔灌水システムおよびヤシ殻土壌水分センサー等のIoT機器を組み合わせて、スマート農業対応型の新たな栽培システムの開発を目指しました。2年間の共同研究期間を経て、ヤシ殻のような空隙が多い培地の水分値を計測できる画期的なセンサーの開発に成功したことで、ヤシ殻培地でも正確な土壌水分の把握が可能となりました。ヤシ殻培地およびヤシ殻土壌水分センサーを使用することにより、黒ボク土、低地土といった土壌の相違による保水率の差に左右されることなく、日本全国どこでも今回の栽培試験結果を再現できると考えています。また、遠隔操作による灌水・給液機能の開発により、栽培作業の省力化・効率化を図ると同時に、ヤシ殻水分センサー測定結果およびAI画像解析による成長分析結果を参照して灌水量・養液量を調整可能ですので、作物の生育状況に応じた適切な灌水量・養液量の供給による単収増加ならびに品質向上が実現できるシステムとなっております。

概要図

概要図

導入効果

研究成果としては、以下の導入効果が期待できます。
まず、遠隔操作により灌水と液肥供給を制御することで、圃場に移動する時間および圃場での灌水・給液に必要な開閉栓作業等を削減でき、栽培作業の省力化・効率化が実現出来ます。削減した作業時間を収穫作業、販売活動等の収入に直結する作業に充当できることで、間接的に経営の安定化も期待できます。また、遠隔で操作できる強みを生かし、コロナ禍において圃場での人の密集を避けるという効果もあります。
つぎに、栽培の実証データに基づく灌水・給液量の目安の実行と、生育状況に応じた調整が可能なシステムとなっておりますので、栽培ノウハウを持たない新規就農者においても、収量増加と品質向上の実現が期待できます。本共同研究を開始するにあたり、通常施設栽培と比較して1.2倍以上の単収増加および7%以上の高糖度トマトの栽培を目標に設定しましたが、栽培実証試験では期間あたり3.4倍の単収増加(約29t/10a)、9.2%の高糖度トマトの栽培と何れの目標も達成出来ました。栽培試験において収量と品質の向上に直結する水分と養液管理が実証できたことと、圃場の土壌を問わないヤシ殻培地の利用によって、生産者圃場においても収量増加および品質向上効果の再現が期待できます。

今、そしてこれから

今後の製品化については、ヤシ殻土壌水分センサーの量産が始まりますので、量産開始後にベータ版の提供から始める予定です。ベータ版の期間を1年程度設けてサービスの内容を固め、製品化した試用版を提供していく形になります。販売の主なターゲットは新規就農者、事業拡大中の農業生産法人を予定しています。なお、東京エコポニックを用いたヤシ殻培地は農地以外にも設置可能であり、都市部の商業施設の屋上、駐車場の空き地等を新たな圃場として活用出来ますので、都市開発を請け負っている会社への提案も考えております。製品化への課題としましては、東京エコポニックで使用する資材の原価を低減していくことと、トマト以外の作物への展開を視野に、カメラの撮影技術も継続して改良を重ねていくことです。現時点では、イチゴ、葉菜類、果菜類を生産者のニーズおよび市場価格も考慮しながら展開対象作物として検討を進めております。また、将来的には海外での展開も検討しておりますので、その際には機器の通信規格の適応も今後の課題となります。高品質の農産物の需要が高い香港、シンガポール等アジア圏の都市部で展開できれば、新鮮な野菜、傷みやすいイチゴ等の果物を大消費地内で栽培できるため、大きな需要があると期待しております。現在、農業分野でもIoTの導入が進んでいますが、省力化・効率化を目的とした場合には費用対効果を見極め難いうえに、取得データの活用方法の難しさも相まって導入の障壁になっているケースが多々あります。本システムでは、栽培作業の省力化・効率化に加えて、栽培実証データに基づく収量増加・品質向上に直結する機能に絞って提供することで生産者に収入増加と使い勝手の良さを実感頂き、スマート農業といえば本システムを選択頂けるよう、引き続き栽培実証試験と機能改善を進めていく予定です。

遠隔操作可能な養液栽培システムの研究開発
~栽培作業の省力化と高収益化を実現する~