左から:
ソナス
事業本部 シニアビジネスマネージャー 小宮山 徹様
代表取締役/CEO 大原 壮太郎様
開発本部 本部長 赤岩 航様
ネクストフィールド
サービス企画・開発部 マネージャー 竹内 俊之様
サービス企画・開発部 中川 魁人様
ソナス株式会社は、独自開発のIoT向け無線通信技術「UNISONet(ユニゾネット)」を核に、センシングに関するハードウェア、ソフトウェア、サービスの企画・設計・製造・販売を手掛ける東京大学発のベンチャー企業です。2017年の事業開始以来、建築・土木、製造業、社会インフラなど、無線通信が導入しづらかった現場のIoT化を支援してきました。
UNISONetは、複数の無線機が自律的にデータを中継するメッシュ型の無線技術です。省電力で広い範囲をカバーできる特長を生かし、傾斜、温度、漏水、振動などのセンシングデータを電池駆動の機器で取得し、クラウド上で可視化するシステムを提供しています。工事現場における土留めの傾斜監視や熱中症対策、橋梁などのインフラ点検の省力化といった用途で活用が進んでいます。
本共同研究には、建設現場のDXを推進する株式会社ネクストフィールドも参画しました。同社は、飛島建設の建設現場ノウハウとNTTグループのICT技術を組み合わせ、建設DX、BPO、建設ネットワークの各領域で、現場へのICT導入と運用支援を行っています。
建設業界では、労働力不足に加え、働き方改革に伴う時間外労働の上限規制への対応が急務となっています。限られた人員で品質、安全、工程を維持するためには、遠隔臨場、監視カメラ、BIM/CIM、各種センサーなどを活用したDXが不可欠です。しかし、それらを現場で活用するには、建設中の建物内や地下、高層階まで安定したネットワークが届いていることが前提となります。
一方、実際の建設現場では、工事の進捗に伴って壁や柱、資材の配置が変わり、携帯回線や既存のWi-Fiが届きにくい場所が発生します。有線LANを各階に敷設する方法は工事負担が大きく、アクセスポイントを移設するたびに専門知識を持つエンジニアの作業が必要になることも課題でした。ソナスが現場向けセンサーを提案するなかでも、「本当に欲しいのはWi-Fiだ」という声が多く寄せられていました。
こうした課題に対し、ソナスが持つUNISONetの制御技術と、ネクストフィールドが持つ建設現場の知見を組み合わせることで、現場で"置くだけ"で使える、建設現場向けメッシュWi-Fiの開発を検討していたところ、建設現場のネットワーク構築の課題を抱えていたネクストフィールド社から、「ぜひ共同で開発したい」との意向をいただきました。そこで製品の実用化、商品化を目指して、都産技研の公募型共同研究に応募し、3社での共同研究がスタートしました。
本共同研究では、UNISONetとWi-Fiを組み合わせたハイブリッド型メッシュWi-Fiシステムを開発しました。映像や図面データなどの高速通信はWi-Fiで行い、アクセスポイント同士の接続状況や通信品質の把握、最適なネットワーク構成の制御にはUNISONetを活用します。これにより、データ通信と制御通信を分離し、建設現場のように環境が変化しやすい場所でも、安定した通信エリアを構築できる仕組みを目指しました。
開発の柱は大きく三つです。第一に、アクセスポイント間の通信品質を自動で把握し、最適な接続経路やチャネルを構築するアルゴリズムの開発。第二に、ネットワークの稼働状況や通信品質をクラウド上で可視化し、外部システムと連携できるAPI・管理画面の構築。第三に、粉じんや水、屋外利用にも配慮した堅牢なアクセスポイント筐体と、現場で簡単に設置できる治具の開発です。
特に設置性については、マグネット、単管クランプ、吊りボルト、ベルト、三脚など、建設現場で使われる場所に合わせた複数の固定方法を用意しました。専門業者でなくても短時間で取り付けられ、工事の進捗に応じた移設にも対応しやすいことを重視しています。
概要図
開発した試作機は、北海道、沖縄、東京都内の建築現場で実証を行いました。現場で利用されている監視カメラなどのアプリケーションが安定して動作するかを検証するとともに、建設会社の作業員が実際に設置やネットワーク構築を行い、使い勝手や運用面の課題を確認しました。
実証では、画面の案内に従って短時間でWi-Fiを構築できる点や、ネットワークの状態をクラウド上で確認できる点が評価されました。北海道の現場では、2階から20階程度までの複数フロアを対象に設置し、各階で安定した通信を確認。遠隔監視カメラの活用やBIM/CIMデータの閲覧など、現場DXを支える通信インフラとしての有効性が示されました。
また、有線LANの縦系統配線を削減できることから、導入コストの低減も期待できます。アクセスポイント10台を1年間レンタルする場合の総額で、従来方式と比較して導入コストを2分の1以下に抑えられる見込みも示されており、中小規模の現場にも導入しやすい価格帯を目指しています。営業活動や展示会でも高い関心が寄せられ、建設現場に共通する課題に応える技術として手応えを得ています。
現在は、建築現場での本格導入に向け、製品化と販売体制の整備を進めています。まずは、各階にアクセスポイントを設置することで建物全体をネットワーク化し、監視カメラ、図面データ、施工管理システムなどがどこでも利用できる環境づくりを目指します。導入後の現場の声を製品に反映し、より使いやすく、より低コストな通信インフラへと磨き込んでいく考えです。
今後は、メッシュWi-Fiを単なる通信手段にとどめず、センサーネットワークとの融合も視野に入れています。温度センサーや位置情報ビーコンなどを組み合わせることで、熱中症対策、資材管理、作業員の安全管理など、現場全体をデータで見守る仕組みへ発展させることができます。
さらに、建築現場で培った技術は、土木現場、トンネル工事、災害時の避難所ネットワーク、製造業のライン変更時の仮設ネットワークなどにも展開できる可能性があります。ソナスとネクストフィールドは、建設現場の「つながらない」を解消する通信インフラを起点に、安全で効率的な現場づくりと、建設DXのさらなる加速に貢献していきます。