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支援事例(公募型共同研究)

株式会社トーヨーホールディングス

室内水耕栽培におけるAI生育状況管理システム
~「どこでも」、「誰でも」、「効率よく」栽培できる農業の実現へ~
  • R&Dセンター
    菊地 海砂 様
  • R&Dセンター
    センター長
    高橋 優太 様
  • R&Dセンター
    GARIMA SINGH 様

企業概要

株式会社トーヨーホールディングスは、多様な事業とそのシナジーで新しい価値を創造し、持続可能で豊かな社会の実現に貢献するという企業理念のもと「Innovation & Sustainability」を合言葉に50年後、100年後を視野に入れた企業活動に取り組んでいます。
主な事業は、建設事業をはじめ、不動産事業、再生可能エネルギー事業、アグリ事業となっており、街づくり総合企業として事業展開を行っています。
本研究では、アグリ事業のR&Dが担当し、ソフトウェアとハードウェアの開発のほかに、プロセス再構築などの現場に入り込んで開発を行うコンサルティング型の研究開発を行っています。

企業HP:https://toyo-group.com/

開発のきっかけ

昨今、食にまつわる部分で注目されております廃棄ロス問題や農業従事者数の減少・高齢化などの社会的問題、生鮮食品の鮮度に加え見た目の品質を気にする方が増えてきているなどの市場ニーズが背景にあります。
トーヨーホールディングスでは、これらの問題を解決するために面積利用効率の高い多段式水耕栽培方式による施設園芸を展開して参りました。しかし実際の圃場運営には、ベテラン農業従事経験者のノウハウと多くの作業労力が必要で、社会に広く多段式水耕栽培方式による施設園芸を広めるためにはこの問題が普及のボトルネックになると考えて、「どこでも」、「誰でも」、「効率よく」作物栽培を可能とする施設園芸管理新システムを目指し開発を進めることにいたしました。

開発の概要

施設園芸管理支援システムは、作物の生育状況を自動で撮影する自動航行撮影機とAIを用いた自動データ解析・判定機能により、自動航行撮影機で撮影した作物生育状況撮像データから解析・判定結果を取得し、これらを管理情報として提供する一連のソフトウェアを組み合わせ実現しました。

1. 自動航行撮影機開発(ハードウェア開発)
作業工数低減を目的として新規開発を行いました。予め決めた時刻に自動起動し農場を自走しながら作物の生育状況を撮像しクラウドサーバーへデータを転送することで、人手をかけず作物生育状況のデータ収集が可能です。また、カメラにより撮像することで人では確認しづらい高所に位置する作物の生育状況も物理的制約無く確認可能となります。

2. AIを用いたデータ解析・判定機能+判定結果を情報提供する機能開発(ソフトウェア開発)
自動航行撮影機によって自動アップロードした撮影データをもとに、ベテランでも判断が難しい内容を、AIによる自動判定に置き換え、判定結果を情報提供するUI*1機能の開発を行いました。

①生育不良検知機能:生育不良を自動検知し管理者へ通知する。迅速な対処で作物不良を低減する。

②病害検知機能:うどん粉病に代表される病害発生を自動検知し管理者へ通知する。病害発生を最小限に抑制することで作物へのダメージを最小化できる。

③収穫予測機能:作物の生育状況の推移を自動的に分析することで収穫可能な時期を自動的に判定する。この機能により、刈取り収穫時の余りを削減し食品ロス低減に貢献する。
また、AIにより判定した結果は、農業未経験者でも簡単に取り扱える様に配慮したUIにより情報を提供します。

*1 UI ユーザーインタフェースの略

概要図

概要図

導入効果

実際の農園で開発したシステムの実証試験を行い、導入効果を検証しこのシステムが目指す「どこでも」、「誰でも」、「効率よく」多段式水耕栽培が実現できる施設園芸管理システムを実現しました。
このシステムがもたらす導入効果を以下に示します。

1. AIによる生育不良と病害状況を自動判定することで、ベテラン経験者同等の作物管理能力の獲得
生育不良検知精度:95%以上、病害検知精度:95%以上を達成し、「誰でも」、「効率よく」を実現しました。
*ベテラン作業者判断比の数値

2. AIによる収穫予測で廃棄ロスの低減
AIを用いた成長推定アルゴリズムによる収穫予測を行うことで、作物の作りすぎが抑制され廃棄ロスが低減できます。
収穫予測精度は開発目標80%以上を達成し、「効率よく」を実現しました。今後、更なる精度向上へ取り組みます。

3. 自動航行撮影機を用いた作物生育確認作業の無人化による作業工数の大幅低減
実際の農場で実施したシステム実証試験において、作業工数の従来比98%減が達成できました。AIによる自動判定により人の経験や技能のばらつきによる判断のぶれもなくなり、「誰でも」、「効率よく」安定した生育管理が実現できるようになります。また、無人化の効果として、人手による確認作業が不要となり高所確認作業などで起こりうる転倒事故などの作業リスクも低減し作業の安全性が確保でるようになります。

4. 専用の生育情報提供アプリケーションソフトウェアによる作物管理の効率化
AIの自動的な判定結果が一目で見てわかるシンプルなユーザーインターフェース画面による情報提供により、作業者が迷うことなく管理業務ができるようになります。煩雑な作物生育管理が無くなることで、「どこでも」、「誰でも」、「効率よく」作物管理が実現でき、農業未経験者の方でも農場運営参画が可能になります。

今、そしてこれから

現在、今回の共同研究実証試験で得た結果に基づく省スペース化、低コスト化、自動検知判定精度の更なる向上などの課題を解決を行い、本システムのブラッシュアップを目指し製品化を進めています。
このシステムの主なターゲットは新規に農園を運営する農業未経験者の方です。当システムの部分的な機能だけを利用したいというニーズも想定しながら、柔軟性の高いシステム構築が実現できるように進めて参りたいと考えています。
昨今の新型コロナ禍の影響も重なり、農作物の安定供給、環境配慮に加え衛生面も重要視される多様な市場ニーズに応えるべく、自社の保有する街づくり総合企業の強みを生かした事業展開を行っていきます。そして、当システムが広く社会に普及することで、アナログで苦労が多いという農業のネガティブなイメージが刷新され、就農者の増加に貢献することで社会的問題解決にも寄与できるものと期待しています。

室内水耕栽培におけるAI生育状況管理システム
~「どこでも」、「誰でも」、「効率よく」栽培できる農業の実現へ~