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支援事例(公募型共同研究)

Upside合同会社

浮漁礁漁法における漁場選択支援サービスの開発
~DXを活用したスマート漁業~
  • 代表社員
    新田 哲也 様

企業概要

Upside合同会社は2009年に創業し、東京都千代田区永田町に本社を構えております。また、沖縄県那覇市に営業所を持つことで沖縄県の市場に対しても活動をしています。
「IoT活用で中小企業の未来を変える。」を最上位ミッションに掲げ、IoTやDXは大企業のものだけではなく、中小企業においても大きな利用価値のあるサービスと考え、様々なクライアント様へコンサルティングを行っております。
主な事業モデルは「IoT導入のコンサルティング事業」、「ソフトウェア開発事業」、「IoTによるSaaS型サービス事業」の3つです。ビジネスポリシーである「すべては、貴社の成長のために」を実現するため、IoT導入コンサルティングのキーワードを中小企業向けに特化し、IoT導入に必要なスキルと全体設計をワンパッケージで提供させていだたいております。

企業HP:https://www.upside-llc.com/

開発のきっかけ

今回の共同研究に採択される前の2017年に八重山漁業協同組合と水産業のIoT化についてお話をした機会が開発の契機となりました。その際に、公立はこだて未来大学 和田雅昭教授と共に水産業に役立つIT、IoTを進めていく意見へと集約され、パヤオ漁(浮漁礁漁法)に注目しました。
2019年2月、1基のパヤオにGPS機能付き衛星通信機を取り付けたことから始まりました。これにより、潮流情報や位置情報が取得できるパヤオ漁を運用することができました。現場の漁師さんからの意見も良好で規模を拡大する流れとなりました。
その後、今回の公募型共同研究のお話をいただき、2019年の9月に研究が採択されたことでパヤオの数は1基から6基へと増加し、スケーラブルな展開へと至りました。

開発の概要

開発した漁場選択支援サービスはSaaS型モデルとなっており、クラウド上にデータを蓄積することで統計分析、機械学習処理を行っていき、得られた情報を基にした漁場選択を人間が意思決定する流れとなります。
統計データの蓄積においては、パヤオから得られる位置と潮流の情報は自動で収集され、操業や漁獲高等の情報については個別にタブレット端末で入力していただきます。
収集した統計データはクラウドサーバーに集約され、漁獲高等の統計データや個別で入力した情報をアプリケーションで閲覧できるようになります。また、機械学習による最適なパヤオの選択についても判別できるようになります。
漁師さんは様々な勘と経験のノウハウを有しております。本サービスは漁師さんが判断するという部分を常に大切にする運用となっております。
また、開発したSaaS型サービスをパヤオナビとして展開し、パヤオ漁だけでなく、沖縄県の主要な漁法での操業にも対応しております。

概要図

概要図

導入効果

IoT導入によるスマート水産を実現し、3つの課題を解決することができました。

1. 探索時間と燃料費の課題解決です。表層パヤオは±2kmの範囲を浮遊しているため、波高時や霧が出るなど見つけづらい状況がありました。そのため、探索時間に15分~60分程度費やすことがありました。パヤオのGPS機能付き衛星回線機能は、探索時間が2分以下となる効率化と燃料費の削減、環境負荷低減を実現しました。

2. 漁場選択ミスの課題解決です。漁場の海況は現地に行くまでわからないため、漁場選択ミスが約7割にも達しておりましたが、事前にパヤオの潮流情報や統計データ等でAIにより推奨されるパヤオの選択が可能になることで、漁場選択ミスが2割以下と大きく減りました。これにより、漁獲高を向上させることができました。

3. 若手漁師の離職に対する課題解決です。個人の経験と勘に頼った操業が多かったため、漁場や漁獲高の情報が共有されておりませんでした。本システムでは20名にも及ぶ漁師さんが参加することでコミュニティが生まれ、様々な情報やスキルが共有され、統計データの精度向上にも繋がりました。
また、本システム導入による効率化と活性化したコミュニティにより、漁獲量の底上げにも成功、若手の離職対策にも期待できる結果となりました。
実証試験で終わらずに運用に移行できたサービスが、技術的な検証だけでなく、現場に対する導入効果のメリットとデータ化の可能性を明確にしました。
実証試験開始時は数名の漁師さんしか賛同いただけなかったにもかかわらず、実証期間終了時には20名にまで規模が拡大できたことが大きな成果を裏付けております。

今、そしてこれから

AI、IoTを用いたスマート漁業はこれまでにもありましたが、本研究のパヤオ漁(浮漁礁漁法)においてはありませんでした。サービスの商用化においては、共同研究期間が終了し、実際の運用へ向けた契約手続き中の段階となります。
課題としましては、サービス運用費の捻出が挙げられます。これまでの実証期間では発生していなかったコストについて、取引先の漁協の予算に組み込んでいただくことになります。また、他の漁協への販売拡大につきましても同様の課題となります。
これからにつきましては、市場の横展開、技術の横展開、DXとしての事業の変革の3つを行っていきます。
1つ目の市場の横展開として、他の漁協への販売拡大を目指していきます。まずは酷似した漁法を用いている漁協の団体へと働きかけていきます。
2つ目の技術の横展開では、サービスの追加機能や運用方法の意見交換による技術の進化を目指します。研究終了後に水温情報の可視化について追加要望があり、既にサービスに取り込んでおります。
3つ目のDXとしての事業の変革は、統計データとして入力した漁獲高が水産資源のサンプリングデータとなり、水産資源量のデータ化に繋げることです。将来的には沖縄県近海の水産資源量の可視化にまで発展させたいと考えております。

浮漁礁漁法における漁場選択支援サービスの開発
~DXを活用したスマート漁業~