株式会社ウオールナットは1993年に創業し、所在を東京都立川としております。
物理現象を利用した「見えないものを見る」を合言葉に、トンネルや道路などの社会インフラに対し調査・診断・計測サービスと、これらに関わる機器や計測ロボットの研究開発、販売を行っております。
主なサービスは、自社開発した製品を使っての土木構造物の非破壊調査、構造物内部を探査する地中レーダー調査となり、道路面下空洞探査車、トンネル点検車、無人水路診断ロボット、ドローン搭載型レーダー探査機等を開発しました。
また、主なお取引先は官公庁、電力会社、建設コンサルタント、ゼネコンになります。
トンネルを含む土木構造物では、コンクリートのクラック等の変状を観察する目視調査が義務付けられています。この目視調査に対して手書きスケッチを行い、CADによる電子化をしたデータを提出する必要があります。
従来は現地で手書きスケッチした図を会社に持ち帰り、CADオペレーターによって電子化しなければなりませんでした。しかし、繁忙期にはCADオペレーターの作業量が増加することで受注制限しなければならない状況や、CADオペレーターの増員による人件費の増加が問題となっておりました。
この問題に対して、IoTを活用することで作業効率化とコスト削減を図りました。
手書きスケッチ図からCADオペレーターを介してCADによる電子化を行っていた作業に対し、本研究では3つの開発を行うことでIoTを利用したAIによる変状図のCAD化を実現しました。
1つ目は、手書きスケッチ図の電子データ化です。現場での作業を考え、デジタルカメラで手書きスケッチ図を取り込みました。この時、被写体への正対が難しく、歪みが課題となりました。この課題に対してもソフトウェアの改良によって歪みを0.5mm以下にまで補正することができました。
2つ目は、手書きスケッチ図の図形と文字を自動認識し、必要情報をCAD化するソフトウェアを開発しました。多種多様な手書きスケッチ図から、必要な情報だけを抽出する処理は現在のAIにおいても難しい作業でした。必要情報を色分けして記載することで色相による抽出を行い、AIの認識率を高めることができました。
3つ目は、CAD化されたデータを使い、点検要領に従った健全性を判定する機能を開発しました。これにより、変状の1つ1つに健全性が判定されるようになりました。
本研究の成果として3つの導入効果が生まれました。
1. スケッチ図のAIによる自動認識により作業の効率化が図られ、CADオペレーターの人件費が大幅に削減できました。従来の約半分の作業時間になるため、コスト削減と繁忙期においても受注を制限する必要がなくなりました。
2. 手書きスケッチ図の電子化において、スキャナーからデジタルカメラに置き換えたことで持ち運びが容易になり、現場での電子化およびデータ送付が可能になりました。
3. 健全性の判定をCADデータを用いてソフトウェアによって行うため、客観性を持った判定が可能になりました。
これにより、国土交通省の道路トンネル定期点検要領の健全性が自動判定されるようになりました。
人が手書きした図形や文字を認識するAIは今までなかったため、本研究と類似した製品はありませんでした。開発においては、図形や文字の認識率を高めることが課題でしたが、色相によって認識率を改善するなど、様々な工夫と試行錯誤を重ねた結果、認識率と処理速度においても目標を達成することができました。
製品化においては2023年度に販売開始を検討しておりますが、操作性に課題を残しております。まずは関係会社へのソフトウェア提供を行い、実証実験と課題解決を平行して進めてから販売を行う予定です。既にソフトウェアを要望している企業様には、プロトタイプとしての販売も検討しております。
また、文字の認識率の向上も課題となっており、学習データ追加によるさらなる認識率の改善を進めております。
今回の研究開発は、自社業務の作業効率改善を第一としていましたが、CAD化の問題を抱える他の企業様でも活用できるものとなりました。この製品の需要が高まることで今後のバージョンアップにも繋がると考えております。道路トンネルの健全性判断の機能を発展させ、橋梁の桁の点検等への展開も考えております。